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認知症患者は年々増えています。高齢者に馴染みある病気というイメージがありますが、なかには若くして発症するケースもあります。

65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」と呼びますが、私の担当している地域包括支援センターでも、この手の相談を受けることが増えてきました。

これらは映画などの題材として取り上げられますが、実際に介護する側である家族にはどのような問題があるのでしょうか。実際に受けた相談のなかから留意するポイントをいくつかご紹介します。

 

ケースの概要

以下が、実際に相談を受けた事例の概要になります。

【ケースの概要】

◆Aさん(本人) 52歳 
◆Bさん(夫) 55歳  
◆Cさん(長女)25歳  
◆Dさん(次女)21歳   4人暮らし

Aさんは45歳まで教師として働いていましたが、夫の転勤で家族全員が引っ越すことを機に退職。以降は専業主婦として家庭を支えてきました。

しかし、今年に入ってドラマのストーリーに追いつけなくなったり、忘れ物が増えるなどの症状が見られるようになり、不審に思った家族が近隣の医療機関へ受診させ、アルツハイマー型認知症と診断される。納得のいかない家族は認知症疾患医療センターへ受診するも、同様の結果となる。

本人もショックを隠し切れない様子でしたが、まさか52歳という年齢で認知症を発症するとは夢にも思っていなかった家族も同様でした。病名を申告されたことで、介護や今後の生活のことで先が見えない不安を解消するべく長女であるCさんから相談を受ける。

B・Cさんは働いており、Dさんも学生で平日は朝早く出掛け、夜遅くに帰ってくるため、日中はAさん1人きりの状況です。火の心配などは特に無いそうですが、引っ越して日も浅く近隣との付き合いが薄いため、自宅でボーっと過ごすだけになることが家族として心配とのこと。

病状を進行させないためにも活動的に過ごしてほしいという要望があるなか、日中は全員が出て行ってしまうため、長女であるCさんは仕事を辞めて介護に徹するか、Aさんを老人ホームに入居させようか葛藤していました。

それほど進行していなかったため、日常会話はある程度スムーズにできましたが、込み入った話になるとわからない様子でした。Aさんとしては、状況が呑み込めず混乱していたため、意思表示が上手く出来ませんでしたが、「迷惑はかけられないから家族が楽な方法で構わない」といったような気持ちが伺えました。

Aさん以外は仕事や学校があるため日中1人で自宅にいることを家族は心配しています。Cさんとしては自宅で何もせず過ごすくらいなら、老人ホームに入居してリハビリやレクなどを精力的にやってもらうか、自分が退職して介護するか悩んでいます。

介護保険のサービスなどで自宅での生活を続けることは可能です。しかし混乱しているのかCさんも極端な判断しか出来ていない様子でした。

こういった問題を抱える家族は今後更に増えていくと思います。では、どのような点に留意すべきでしょうか。

 

その① 出来る事なら自宅で今まで通りの生活を

私はCさんに「認知症になる前の生活を続けていくように」と提案しました。さすがに働くことは難しかったため、専業主婦として忙しく動いていた頃の生活になるべく近づけるよう目指します。

個人的な考えですが、認知症の進行を遅らせる1番の薬は「元気だった頃と同じ生活をする」です。アリセプトなどの薬や脳トレは、あくまで補助にしか過ぎません。

(リンク)認知症ケアは脳トレよりも日常生活の継続が大切

そのため、Aさんに介護保険の申請をしてヘルパーを利用することにしました。後日、要介護1の認定が下りたため、週3回ヘルパーに来てもらい調理と掃除を一緒に行います。また、馴染みの関係を構築できるよう、なるべく同じスタッフが訪問することで、「信頼ある人と一緒に家事をする」という、以前の生活を継続しつつ安全面の確保を図ることができました。

(リンク)訪問介護(ホームヘルパー)とはどんなサービスか?

他にも、Aさんは歌うことが好きなため、近くの公民館にあるコーラスのサークルに足を運んでもらうようにしました。さすがに1人で足を運ぶのは抵抗感が強く、忘れずに行くことも難しかったため、私の方からサークルの一員である民生委員の方にお願いし、当日Aさん宅に訪問してもらい公民館まで連れて行ってもらいました。

これによってサービス導入前よりも遥かに活動的な生活を送ることが出来ました。相談当初は老人ホームの入居まで検討していた家族ですが、今では自宅での生活が続くことにホッとしているようです。

まだ52歳と若く、ご本人に出来る能力が沢山残されていますので、老人ホームに入居するのは勿体ないです。周りに頼れる身内がいないのであれば施設へ入居した方が安全ですが、同居の家族がいるAさん世帯なら、可能な限り在宅で今まで通りの生活を続けるという視点で見ていきましょう。

 

その② 若年性認知症を支える社会資源は少ない

ヘルパーの導入とサークル活動の参加によってある程度充実した生活を送れるようになりましたが、この体制を整えるなかで実感したのは「若年性認知症の方が利用できるサービスや資源が圧倒的に少ない」ということでした。

当初デイサービスでリハビリを行ってもらうことで、活動量の確保や日中1人でいることの不安解消を狙ったのですが、65歳未満の方を受け入れている事業所がありませんでした。正確に言えば存在するのですが、周りが80歳前後のなかにポツンと52歳のAさんがいても浮いてしまいます。同じような若年性認知症を抱える方が利用しているようなデイサービスもありません。

介護保険制度も基本的には高齢者を対象としているため若い方には馴染まないものばかりでした。

また、若くして認知症になっている方への周囲の理解や認識が薄く、偏見をなくしつつ、Aさんの自尊心を傷つける事態にならないよう徹底して地域住民やサークル仲間に根回しする必要がありました。たまたまサークルのメンバーに日頃から連携をとっている民生委員がいたため、無理をいってAさんを誘ってもらうことが出来ましたが、このツテがなければ地域へ出向いてもらうことは出来なかったことでしょう。

高齢者であればサービスの幅が広がりますが、若年性認知症の場合せいぜいヘルパー程度しか利用できません。Aさんのように、たまたま地域行事へ参加することが出来ましたが、全員がこういった活動と繋がることは難しいでしょう。

この相談を踏まえ、若年性認知症の介護は家族の力が最も重要であり、これを無くしては在宅生活は不可能であるということを感じました。

 

Aさんのその後

ヘルパーと一緒に行う家事が週3回と、公民館で行うコーラスに月2回参加することを始めました。

慣れないうちは環境の変化に戸惑ったり、サークルへの参加を遠慮する様子がみられましたが、3カ月ほどたった頃にはすっかり打ち解けたようです。特にサークル活動の方では共通の趣味ということもあり、すぐに馴染んだ様子でした。

今ではコーラスの発表会に出るまでになったそうで、自宅でも練習しながら本番へ向け頑張られているそうです。今日の練習内容やサークルでのエピソードを嬉しそうに話す姿に、家族もビックリしていると言っています。相談前は自宅で何もせず過ごしていた母が、今では発表会に向け精を出しているのですから。

ヘルパーの方も、その日のメニューはAさん自身が決めることをルールとしているそうです。次のメニューを何にするかで、料理本や携帯電話を見ながら考えています。思うようにメニューが浮かんでこないらしく、娘2人がサポートすることもありますが、それも家族内の良いコミュニケーションの時間になっているそうです。

 

相談先なら沢山ある

今は症状も軽度ですので、Aさん家族もそこまで負担は大きくないでしょう。しかし、5年10年、月日が経つほどに進行するため、今のような生活を続けることは出来なくなります。家族の負担は次第に大きくなり、生活の軸をAさんに置かなければなりません。

本当に辛く大変な日々が待ち受けているかも知れませんが、不安なとき、辛いとき、感情をぶちまけたいときは色々な所に相談してください。地域包括支援センターでも構いませんし、他にも(リンク)認知症の人と家族の会という組織があります。

ここは認知症の身内を介護する家族が立ち上げたところで、支部ごとに活動されています。認知症の介護に悩む人たちが集まって不安や悩み、愚痴などを言い合ったり、介護の先輩たちからアドバイスを受けたりすることが出来ます。

(リンク)「認知症の人と家族の会」を積極的に活用しよう!

足を運ぶことが出来なくても電話で相談することも可能です。実際に介護をしてきた人が対応しますので、親身に話を聞いてくれたり、具体的なアドバイスが貰えるでしょう。

このような社会資源がありますので、抱え込まず積極的に活用してください。私も介護の経験がありますが、認知症のケアは非常に困難を極めます。自分のペースで出来ない苛立ちや、先行きの見えない不安など、本当に暗く冷たい道を彷徨う感覚です。

ですが1人ではありません。あなたの声に耳を傾けてくれる人がいます。あなたが少しでも笑顔で過ごせるためのアドバイスをくれる人がいます。ただ、道を切り開くのはあなた自身です。そのキッカケの1つとして先ほどのような相談先があることを覚えておいてください。