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認知症の方が老人ホームへの入居やサービス利用を拒否するケースは非常に多く見受けられます。(リンク)【お悩みコラム①】施設を拒む認知症の母を入居させるにはにもありますが、自分の異変を認めたくない側面があるのだと私は考えております。また、拒否を示すのも認知症状の1つであると思っています。

だからと言って本人の言葉通りに聞いていたら何も進まず、事態は日々悪くなります。今回は「プライドの高い夫がデイサービスを拒否するため、介護者である妻に自由な時間が無い」というケースです。このような場合、どういった点に注意して対応したら良いでしょうか。

ケースの概要

以下が、実際に相談を受けた事例の概要になります。

【ケースの概要】
◆Aさん(本人) 75歳
◆Bさん(妻)  70歳

夫婦2人で生活していますがAさんが認知症を患っています。排泄や入浴などは何とか自力で行いますが、Bさんが近くにいないと大声を出したり、イラついて物に当たるなどの言動が見られます。

そのためBさんは、Aさんから離れる事が出来ず、自分の時間を持つことが出来ません。

私と関わりを持つようになったキッカケは、地域の高齢者が参加するイベント(ミニデイ)に足を運んだ際に、偶然来ていた夫婦を見かけたときでした。皆で体操をしているにも関わらず腕を組んでしかめっ面をしていたAさんに違和感を覚え、Bさんに声を掛けたところ、上記の内容を少しずつ話されました。

Bさん自身に疲れが溜まっていたこともあり、休息を入れるためにもAさんに介護保険の申請をします。約1か月後、要介護2の認定が下りたためデイサービスを利用しようとケアマネジャーも交えて協議・調整します。

しかしながら、Aさんが「あんな所に言ったら自分もボケる」と言い張り、また、Bさんと離れることを薄々感じ取っているのか頑なに拒否を示します。Aさんは元々、建築会社の代表取締役にまで昇りつめた人ですので、プライドも高く、誰かの提案を易々と受け入れるような人ではありません。

元々プライドが高いAさんは、デイサービスに行くことで「自分もボケ老人と同列」になると思ったのでしょうか。休息を得るためにショートステイという選択肢も考えられましたが、同様の理由でやはり断られてしまいました。

しかし、認知症対応というのは、まっすぐ正直に行うだけが全てではありません。時には違う角度からアプローチしてみると意外にもすんなりと事が運ぶことが多々あります。

最終的にAさんはデイサービスへ通う事になりましたが、どのようなアプローチを取ったでしょうか。実際に行った方法や、こういったケースを動かす際の留意点についてご紹介します。

 

その① 嘘も方便。本人が納得する理由で誘導する

デイサービスに行きましょう⇒わかりました。と理解してくれる相手なら良いですが、認知症の方は新しいことや変化に対して強い拒否を示します。そのため時には嘘でも構いませんので、ご本人が納得する伝え方でお話ししてみると非常に効果的です。

認知症の方に対して理論的に話したり、正論を突き付けても暖簾に腕押しです。反感を買われてしまうでしょう。このケースに限った話ではありませんが、認知症対応の原則は本人に納得してもらう事です。よく言われるのが「説得よりも納得」です。上手くできた言葉ですね。

(リンク)認知症への対応で大切なこと

(リンク)認知症の症状と心掛けてほしいこと

そのためAさんに対しても同様にアプローチしていきました。この方は会社の取締役まで務めた仕事人間ですし、今でも「打ち合わせがある」と言って電車に乗ろうと出掛けてしまいます。これを逆手にとってデイサービスへ誘導しました。

私はAさんに対し、「ある建物(利用してほしいデイサービス)に修繕が必要だと思うのですが、私たちでは何とも判断が出来ません。どの程度の費用が必要なのか見当もつかないので、朝の9時頃に見積もりに来ていただけませんか?」と聞いてみました。

相手の世界観に合せる

これを受けたAさんはあっさりと了承。3日後の朝にお迎えに伺いますと伝え、当日の朝、Bさんが再度要件を伝えて無事に初めてのデイサービスに通うことが出来ました。

2回目以降の利用でも、「スタッフが相談したいことがあって、是非アドバイスしてほしい」と、あくまで「デイサービス=Aさんの仕事場」という演出をしていきました。Aさんも仕事であれば断る理由がなく、言葉には出さないものの「助けが必要なら行ってやろう」という様子でした。実際に、デイでもスタッフや利用者の様子を後ろで監視しながら指示を飛ばしていました。ご本人なりに楽しんでいる様子が見受けられました。

 

その② 本人へ伝える人を変えてみる

ご本人の世界観に合わせて対応する方法が大原則ですが、他には「人を変えてみる」という方法があります。

例えば時折見られるのが、女性を下に見ている男性です。この場合には男性の言葉にしか耳を貸しませんので、話し相手になるのは自ずと同性となります。

また、若いお兄ちゃんの言う事なら喜んで聞いてくれるおばあちゃんもいます。なかには医師などの威厳ある人に巻かれるタイプもいらっしゃいますので、その人のキャラクターによって伝える相手を変えてみると良いでしょう。

人同士のことですので合う・合わないが存在します。相手のキャラにピッタリな人からお願いしてみましょう。

Aさんのケースの場合、私は「Aさんの会社に勤めるキッチリと仕事をこなすタイプの部下」というスタンスでの対応が上手く合致したので良かったです。

 

その③ 1度連れていくことが出来れば波に乗りやすい

デイサービスのスタッフはプロですので、認知症の方の受け入れ方も心得ています。その方々に合った対応をしていますので、連れてくる事さえ出来れば後は何とかやってくれます。また、1度行けば抵抗感も薄れますので、2回目3回目と続きやすいでしょう。利用回数を増やしたり、更にはショートステイに繋げて、より多くの休息を得ることも見えてきます。

初めてお連れする所が1番大変ですが、ここをいかに乗り切るかが鍵となり、踏ん張りどころとなりますので、ケアマネジャーや家族と協力しながら頑張りましょう。

 

Aさんのその後

私の誘導によりデイサービスへ通うこととなりましたが、初めのうちは妻も一緒でなければ送迎車に乗ろうとしませんでした。仕方なく急遽妻も同乗し、デイでも付きっきりでしたが、数回利用した頃には1人で通う事が出来ました。今ではフロアの後方で監督・指揮をしています。

初めての利用から4か月経った時にデイサービスを週1回から週3回に増やし、同時にショートステイも1泊2日から導入しました。ショートステイは難しいかと周囲も心配でしたが1人で難なく利用出来ました。

週3回のデイサービスと1泊2日のショートステイを利用出来たことで、Bさんも家事やボランティア活動に精力的に取り組んでいます。生活にメリハリがついた影響か、Aさんが帰宅してからの介護も苦ではなくなったそうです。