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特にご年配の方は「医療=病院へ行く」という認識が強いです。そして医師に診察してもらうための敷居が高いと思っていらっしゃる印象を受けます。しかし近年『在宅医療』という言葉が各地で広まっており、医師が自宅や施設に来て診察や治療を行ってくれることで医療を身近に感じることが出来るようになりました。

このサービスのお陰で以前は在宅(自宅)生活が難しいとされた、医療処置が頻回に必要な方たちも住み慣れた生活の場にいることが出来ます。

訪問看護サービスと同様、医師が地域へ出向いてくれることへの理解度は薄いです。しかし、在宅生活をなるべく長く続けたい、あるいはサービス外付けタイプの施設においても安全・安心して過ごすためには必須のケアになりますので、ここでご紹介したいと思います。

 

サービスの内容

医師と看護師が自宅(施設)に来て必要な治療などを行ってくれるサービスです。

大きく分けると3つのケアがあり、①処方箋の発行 ②検査 ③治療 となります。

サービス 内容
処方箋の発行 薬が必要な方に処方箋を発行します。薬局へ持っていくと薬を受け取ることが出来ます。それが難しい場合は薬剤師が届けに来てくれます。
検査 血液・尿・便の検査や心電図検査。心臓超音波検査。CTやMRIなどの大きな機器が必要な検査の場合は提携する近隣医療機関を紹介してくれます
治療 事業所によって可能な範囲は異なりますが、どこでも行ってくれる処置は以下の通りです。

●点滴・注射 ●インスリン  ●経管栄養  
●IVH(中心静脈栄養)  ●抗がん剤治療
●疼痛・麻薬の管理  ●外傷・褥瘡の処置
●気管切開  ●在宅酸素  ●心臓ペースメーカー

③治療のサービスがほとんどですが、他にも予防接種などを受けることも出来ます。また、24時間体制ですので夜間や診療日以外に緊急的なことが起きれば必要に応じて訪問してくれます。

なるべく多くの科に対応出来るだけの体制は整えていますが、在宅医療では対応出来ない部分については提携の近隣医療機関を紹介してもらい診察や検査をしてもらう事も可能です。

また、訪問診療と往診は同義に思えますが実際には異なります。

【訪問診療】…定期的な診療を基本とする
【往診】…急変時や本人・家族の要望で不定期に行う医療

訪問診療を利用している方のほとんどは月2回来てもらっています。(週1回という選択もありますが、それだと商売にならないので少し嫌がられてしまいます…。)

どんな人が利用するのか

訪問診療の用途は様々あり色々な目的で利用されています。どのような方が実際に使っているでしょうか…

【利用目的】
◆自宅(施設)での療養を希望している
◆緩和ケアを希望している
◆ガンなどの治療を自宅(施設)で行いたい
◆自宅(施設)で在宅酸素や経管栄養などの管理が必要
◆通院が困難あるいは拒否している

入院治療が必要な状態であっても、必要以上に病院に居たくない、住み慣れたところで生活を続けたいという人が利用されています。それ以外にも病院へ通うことが出来ない場合や受診を拒否する人などにも有効なサービスです。

 

料金

訪問診療に掛かる料金は3つあります。①医療費 ②介護保険の自己負担分 ③薬代 です。

1か月あたりの費用については病気や治療内容、訪問回数などによって全く異なりますので一概には言えませんが、糖尿病や高血圧など慢性疾患の管理や認知症治療など軽微なものに関しては①~③合わせて6000円~7000円ほどです。また、全体の半数ほどは1万円以内に収まっています。

一方、ガンの緩和ケアや頻回な点滴・注射、高価な薬の処方などが複合されると3万円以上になりますが、日本には高額療養費制度というものがあります。

これによって後期高齢者の場合、医療費が月12000円以上の場合は超えた分が還付されます。そのため訪問診療での治療を大量に導入させたからと言って高額になる心配はありません。

 

受診に繋がらない人にも有効なサービス

基本的には自宅での療養を希望している人を対象にしたサービスですが、なかには違う目的で導入している方もいらっしゃいます。

病院へ通うことを極端に嫌っている人や認知症により受診を頑なに拒否して家族が困っているケースなどが地域で多く見受けられます。力技で連れ出すことも難しいため、治療が進まず悪化する一方になってしまいます。

そのため、本人に行こうとする気持ちが無いなら医師に来てもらえば良いと考え、訪問診療を利用しているケースが結構いらっしゃいます。私が相談を受けたなかから、このような目的で訪問診療を開始された人たちの事例をご紹介します。

病院嫌いで受診しておらず介護保険申請に繋がらない

【概要】
◆本人80歳男性 妻と長女の3人暮らし

本人は目が悪く、以前から血糖値が異常に高かったらしく糖尿病からくる網膜症である恐れのある方です。布団からほとんど出ず寝たきりに近い生活をしていたため、介護保険の申請をしてデイサービスへ通わせようと長女は考えていました。

しかし本人は病院が嫌いで20年近く受診しておらず、主治医意見書を作成する医師がいないため介護保険の申請が出来ません。このままでは病状や心身機能も悪化する一方で家族は困っています

介護保険の申請をするためには医師の観点で介護の必要性を記載してもらう「主治医意見書」というものが必要です。しかし、この男性はどこにも受診しておらず作成できる医師がいません。申請の為にはまず受診することから始める必要がありました。

私がご本人とお話しして受診するようお願いしても聞く耳を持ちません。そのため家族に医療保険による訪問診療を勧め、すぐに導入することになりました。

次の週には医師と看護師が本人宅にきて診察を行い、処方や主治医意見書の作成を請け負ってくれることになります。

このとき本人は「俺が嫌だと言ってるのに何故アンタ達が来るんだ!本人の了解は得ていないぞ!」と怒っていましたが、すかさず看護師が「娘さんのご了解を得ていますので診察させてもらいます」と説き伏せていました。

血液検査の結果、至るところに治療の必要性が出てきましたが、今では服薬などを適切にしているため検査数値も良好へ向かっています。

認知症により受診を拒む

【概要】
◆本人74歳男性 妻は亡くなっており独居。近くに娘が住んでいる。

本人は足腰が悪くなっているものの何とか身の回りのことは自力でやっています。しかし、最近になって日にちを忘れるなどの認知症状が出現してきました。近くに住む娘が心配して物忘れ外来へ受診するよう誘導するも「何で俺が頭の検査をするんだ!」と怒ってしまいます。元々頑固な性格であり他人の提案は聞き入れない方でしたが、このままでは生活に支障がでないか、病気が更に進行しないかと不安だそうです。

認知症の方が受診を拒むのは症状の1つです。「頭の健康診断に行きましょう」という提案だけでは連れ出すことが出来ない場合もあるでしょう。私たちも認知症の方を病院へお連れする方法で日々格闘していますが、どうしても受診させられないことがあります。

そこで娘さんに訪問診療を提案しました。事業所を紹介すると、すぐに連絡を取り、2日後には来てもらう事になります。

当日、娘さんも立ち会って診察を行いますが、初めのうちは本人も医師に対して不信感を持っている様子でした。しかし、聴診器を当てながら普段の様子を聞き取るなかで、会話が出来るかどうか、物忘れは見られるかなどを探っていたため、本人からすれば単なる健康診断のような感覚だったでしょう。

医師が帰る頃には「遠くから有難うございます」とお礼まで言っていました。また、本人の感情を逆なですることなく、しっかりと認知症の診断をすることが出来たため、次回以降の診察も拒否なく受けてくれるでしょう。アルツハイマー型認知症の初期段階とのことで、アリセプトという薬が処方されることとなり、娘さんが毎日、様子を見に行くついでに服薬させることになりました。

(リンク)認知症状が強く入居が難しい場合の対応

(リンク)【お悩みコラム①】施設を拒む認知症の母を入居させるには

(リンク)5分で出来る認知症の検査2つをご紹介