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研究や受診する患者が増えるなかで、治療に対する方法や考え方にも多様性が出てきました。そのなかでも少し前から全国各地で広まりつつあるのが今回ご紹介する「コウノメソッド」というものです。

これは愛知県名古屋市にクリニックを構える河野和彦先生が考案した、それまでの認知症へのアプローチとは少し異なったものになっています。しかし、賛同する医師や医療・福祉関係者が増えてきたこともあり、今では各地でコウノメソッドを実践した医師が認知症専門の診療科を立ち上げたり、講演を開いたりなど動きが活発になりつつあります。

私も今まで何度かこの療法に関する講演に足を運んだことがありますが、「なるほど」と感じる内容も多く視野が広がりました。今回はこの療法がどのような内容なのかお話ししたいと思います。

 

コンセプト

考案者である河野先生の長年に渡る診察から導き出した療法ですが、以下のようなコンセプトに基づいています。

【コンセプト①】
医師の指示のもと介護者が薬を調整することで副作用を出さないようにする

【コンセプト②】
患者と介護者の両方を天秤にかけた場合、介護者を優先する

 

コンセプト① 医師の指示のもと介護者が薬を調整する

通常であれば診察を踏まえ、治療方針や処方箋を医師が決め家族や介護者に指示をだします。わからないことや変化が生じた際などには再度診察を行い、それらを医師が軌道修正します。

しかしコウノメソッドでは、診察によって医師が出した指示のもと、何か変化があった時には介護者の判断で薬を勝手に調整しても構わないスタンスを取っています。

認知症というのは、その時々によって症状が大きく変わります。いちいち医師に相談することで手遅れになる等のリスクを回避するための方策でしょうか。状態によって薬の量をどの程度増減させれば良いかについては具体的に医師から指示があるそうです。

 

コンセプト② 患者と介護者を天秤にかけた場合、介護者を優先する

認知症患者には必ず介護者がいます。その介護者への負担が大きくなり、体調を壊すなどの有事の出来事があると、それは患者本人への不利益に直結します。

そういったアクシデントを回避する、あるいは、いつまでもその人らしく生活してもらうためにも介護者に元気で明るく過ごしてもらうために、両者を天秤に掛けなくてはならない事態があれば、その時は介護者を優先する治療を施しますというものです。

これは言うなれば「介護者の声にしっかりと耳を傾けてくれる」ということだと私は思います。患者の今の現状や介護者の辛さ・不安などを聞きながら治療方針を決めてくれますので、診てもらっている家族としては大きな安心感が得られるのではないでしょうか。

(リンク)【お悩みコラム①】施設を拒む認知症の母を入居させるには

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治療薬の処方方法に特徴がある

コウノメソッドの処方は他の医師とは異なり特徴があります。そもそも、この療法は「副作用を出さない」ことをコンセプトとしてます。そのため、「その薬にはどのような効果が期待できるか」ということと「患者の状況(症状)は具体的にどうなっているか」を照らし合わせながら、処方する薬の種類や量を細かく決めてきます。

例えば、認知症の治療薬で有名な「アリセプト」という薬。これはザックリ言うと、「元気になるタイプの認知症治療薬」であり、アルツハイマー型認知症によく処方されています。

認知症にあまり詳しくない医師の場合、アルツハイマー=アリセプトという方程式がありますが、コウノメソッドではこれを良しとは考えていません。同じアルツハイマー型認知症でも、暴言や不眠などの症状が出ている人に元気になるタイプであるアリセプトを処方すると、症状はより激しくなってしまいます。そのため、認知症の種類だけでなく、症状にも考慮して処方薬を決めます。

そして必要以上の量は処方しませんので、通常製薬会社で定めている規定量通りに出さないことも十分あります。

 

患者の症状に合わせて用量を細かくしている

通常、製薬会社が定める用法・用量を守りながら処方しますが、コウノメソッドでは患者の状態に合わせて服用してもらうため、規定通りとは限りません。

例えば「アリセプト」という薬の場合、初めは3㎎と軽めの用量になっており、1~2週間後に5㎎、4週間後には10㎎と増量していきます。ほとんどの医師はこれを遵守して患者へ処方箋を出しています。

しかし、河野先生は本人の体質や症状・体調によって良し悪しが違うため、画一的な治療は好ましくないと考えています。軽い症状の人には少ない用量を続けたり、回数を減らしたりと臨機応変な対応をしています。

 

近くにあるなら受診してみる価値アリ

「コウノメソッド」と検索すると実践医の医療機関名や住所を調べることが出来ます。数はまだ多くありませんが、近くにあるならば受診してみる価値はあると私は思います。

コンセプト①・②を見ればわかる通り、実践医は患者や家族(介護者)に向き合い、真摯に対応してくれます。患者側の意図を十分に汲み取ってくれます。こういった姿勢の医師は正直そこまで多くないですので、家族としても心強いのではないのでしょうか。

実践医による講演を聞きに行った際に、実際の診察の様子を映像で流していましたが、1人1人に掛ける時間が長かったことを覚えています。それだけ、症状や背景を時間を掛けながら耳を傾けているのだと思いました。

 

経営は苦しくても患者のために診察を続けている

以前、とある実践医と親交の深いケアマネジャーと話をしましたが、経営はかなり苦しいらしいです。規定通りの処方をしていないため通常より少ない量しか出さないことも多く、それに伴って利益も減っていくとのことでした。

また、イレギュラーな処方をしていることで次の監査に引っかかるのではないか心配だと嘆いているとも聞きました。その医師は開業医ですので、通常であれば結構な利益を計上していると想像しますが、現実は違うようです。

それでも診察にきてくれる患者や家族にとって最適となる治療をしてくれる姿勢は本当に頭が下がります。それだけ認知症という問題に対して真剣に向き合い・考えているということでしょう。

経営上あまり美味しくないためか、思うように実践医が増えないコウノメソッドですが、もし気になっているなら1度受診してみてはいかがでしょうか?

(リンク)老人ホームにおける認知症治療薬の使い方