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認知症の方への対応は奥が深く、かつ一筋縄ではいきません。関わっている認知症患者への対応に私自身も苦慮しながらも、より良いケアについて試行錯誤しています。

同じ病気にも関わらず、人それぞれ出現する症状などが全く異なるため、同じケアを別の人へスライドさせて当てはめることが出来ません。より穏やかにその人らしく生活を送ってもらうためには、真の個別ケアが必要になります。

そのため今回は、今まで私が経験してきたことを踏まえ認知症の方へ接する際に心掛けてほしいことをご紹介したいと思います。

 

言動の背景を探る

認知症の人への対応で私が最も大切だと考えるのが、「なぜその言動をしているのか背景を探る」ということです。ここをいかに的確に掴むかがケアの良し悪しを決めると言っても過言ではありません。

なぜ忘れたことを私の責任にしようとするのか、なぜ真昼にも関わらず雨戸を閉めて寝る支度を始めてしまうのか。「何で?何で?」という作業を繰り返し、その背景を掴むと、自然と対応方法や声の掛け方が見えてきます。

 

例)なぜ勝手に外へ出掛けてしまうのか?

皆さん頭のなかでイメージしてみてください。食後に一息ついていたAさんは、おもむろに立ち上がって外へ出て行ってしまいました。

この時Aさんは何故外へ出掛けてしまったんでしょうか?そして、どのように声を掛けるでしょうか?この時、「なぜ出掛けようとしたのか」という理由を探ります。いわゆる徘徊の場合、3つのパターンに分けられることが多いです。

【パターン①】何か明確な目的があった場合

「仕事へ行く」「子供のご飯を作らないと」など明確な目的を持って出かけようとする場合があります。最も輝いていた頃の自分に戻っており、その時のエネルギーが溢れています。

そのため、本人の言い分を聞かずに引き返してもらおうとしても逆上あるいは無視されます。

≪声の掛け方≫

「確か会議は午後からでしたよ。」
「今日は子供たちのために豪勢なものにしない?こっちで一緒につくりましょうよ!」

このように、相手の世界観に合わせたなかで言葉を選んでいく方法が良いでしょう。

 

【パターン②】不安そうに歩き回る場合

身の置き所がなく不安そうにあちこち歩き回っているパターンがあります。そのためパターン①と比べて歩くスピードは遅く、キョロキョロしています。もしかしたら自分の居場所を探し求めて外へ出て行ったかも知れません。

≪対応方法≫

◆不安を取り除くため、時間を掛けて話を聞く
◆不調を訴えるサインを見逃さない

落ち着かないため安心できる場所を探しています。この時には、「あなたはここにいて良いんですよ」と伝えるために、相手の目を見てじっくりと話を聞きながら安心感を与えていきます。

また、体に異変が生じており、それを誰かに知ってもらいたいサインとして外へ出ていくことも考えられます。発汗や肌の色、怪我の有無などを確認することも大切です。

 

【パターン③】ブラブラ散歩したいだけの場合

ただ単に散歩したいから外へ出た可能性も考えられます。この時は表情に余裕があり困った様子は見られません。逆に本人は散歩しているだけなので頭ごなしに怒らないように注意してください。

≪対応方法≫

◆そっと見守る or 一緒に散歩する

パターン③の場合は迷子にならないよう注意するだけで良いです。この時に、世間話しながら頃合いを見計らって自宅に戻ってもらえばバッチリです。

外へ出掛けるには必ず理由があります。その背景を探ることなく画一的な対応方法では相手にはピクリとも響きません。裏に必ず潜んでいる「何で出掛けるのか?」を掴み、その理由にあった声の掛け方をすることが「良い対応」に繋がります。

(リンク)【お悩みコラム②】親の介護に疲れ果ててしまった。このままでは限界…

(リンク)認知症によって徘徊してしまう人に出来ること

 

説得よりも納得が大切

これは我々の業界では有名な言葉であり、私自身も大切にしながら日々業務に取り組んでいます。

「相手を説得するよりも納得してもらう言葉を投げかけることが大切」という意味です。介護に疲れていると、ついやってしまいますが、正論や正しいことを相手に突き付けて「普通に考えればわかるでしょ!」と怒ってしまうことは悪循環に繋がります。

本人は「これが正しい」と思い込んでいるため、そこに支援者側の「正しい」を突き付けても衝突するだけです。言い争うほどに怒り、混乱し、症状が激しくなります。

例)ご飯まだ食べてない!

イメージしてみてください。Bさんは先ほどご飯を食べたばかりにも関わらず「私はまだご飯を食べてない!」と言っています。

Bさんに対してあなたならどのように声を掛けるでしょうか?

【悪い例】

◆「さっき食べたばかりでしょ!」
◆「(茶碗を見せながら)これ、あなたが食べたやつよ!もう無いの!」

確かにおっしゃる通りです。食べた証拠があればBさんも納得するだろうと考えがちですが、認知症への対応としては良くありません。本人にとっては「食べていない」が正解なので、既に食事を終えていることを伝えても反発されてしまいます。

 

【良い例】

◆「もう少しで出来るからお煎餅でも食べてて!」
◆「あと30分くらいで出来るの。それまで相撲でも観てて!」

いくら事実が異なっていても、相手の納得できる言葉で伝えることが大切になります。こればかりは嘘も方便です。「あなたが正しい」ではなく「なるほど!」と思ってもらえる声の掛け方をするよう心がけてください。

 

認知症ケアは時間が掛かる

何度も同じことを繰り返すため支援者側は疲れてしまい、つい手間を省いて目の前の症状に対して小手先で対応しようとしてしまいます。

辛い気持ちは物凄くわかります。私自身も介護の仕事をしていたので、認知症ケアに対する負担の大きさは理解しているつもりですが、それでもやはり1つ1つのケアに対して時間を掛けて対応した方が良いと私は思います。

その場限りを収めるだけの対応では、またすぐに再発します。これを繰り返してしまうと本人・支援者双方が限界を超えてしまうでしょう。

そのため一旦は腰を据え、じっくりと時間を掛けながら真摯に相手に向き合います。話を聞きます。相手の納得・安心する言葉やボディタッチを繰り返します。精神的にも本当に大変ですが、大きな安心感を相手が感じ取ってもらえれば、そう簡単に不穏や何か問題になりそうな行動が再発することはありません。

時間と労力は掛かりますが、認知症ケアとはそんなものです。私も何年か経験するうちに割り切れるようになり、それが心の負担を取り除いてくれました。

何より、しっかりと相手に向き合うことで1番の恩恵を受けられるのは認知症のかたご本人です。あなたのその声掛けが、その人らしく穏やかに生活することへと繋がります。

(リンク)「認知症の人と家族の会」を積極的に活用しよう!