Pocket

当センターでも度々相談が来るのが「認知症高齢者の自動車の運転」についてです。本人は未だしっかりと安全運転出来ていると認識しているものの、実際には擦った跡や事故の一歩手前にまで至った危ないエピソードなどが数多く見受けられます。

「まだ大丈夫」という本人の気持ちとは裏腹に家族や周囲は心配が尽きないと思います。しかし、言ってすぐ止めるようであれば苦労しません。恐らくどのように対処してよいのかわからず路頭に迷いながら、今日の安全を祈っている方もいらっしゃることでしょう。

そのため今回は認知症の人が運転を止めてもらう策や考え方をご紹介します。

 

高齢者の免許更新制度

改正道路交通法が制定されたことなどを受けて高齢者の運転への対策が急ピッチで進んでいます。70歳以上の人が免許を更新する際は「高齢者講習」を受講する必要があり、75歳以上であれば、これに加え「講習予備検査」と呼ばれる認知機能検査を受けます。

この講習予備検査では3つの機能について調べます。

調べる機能 検査内容
①時間の見当識 年月日や曜日を正確に把握しているか聞き取り
②手がかり再生 イラストを記憶させ、別のことを挟んだ後に覚えたイラストを回答する
③時計描画 時計の文字盤を描き、指定された時刻を表す針を描く

検査から結果が出るまで30分ほどと短時間です。この結果を踏まえ「記憶力・判断力に心配が見られない」「記憶力・判断力に少し低下が見られる」「記憶力・判断力に低下が見られる」の3段階に分けられます。

1番低い評価である「低下が見られる」と評価された方に関しては一定の要件が加わります。更新自体はそのまま出来ますが、一時停止や信号無視などの交通ルールの違反が見られた場合には警察から連絡があり、専門医に受診するか、主治医の意見書を提出してもらいます。ここで認知症と診断された場合には免許の取り消しとなります。

※既に認知症と診断を受けている方でも上記のルートと同様になります。免許更新手続きのタイミングでは医療機関と警察では情報の共有をしていません。検査に引っかかった方が交通違反を起こした場合に、意見書を提出することで取り消してもらいます。

(リンク)5分で出来る認知症の検査2つをご紹介

 

主治医の意見書はあくまでも任意

検査に引っかかった方は診断書を作成してもらうことになっていますが、医師側としては提出はあくまでも任意と定められています。

強制してしまう事で問答無用に本人の行動を制限しかねないことが問題視されている背景があります。ただでさえ移動が困難な高齢者が、その手段を絶たれることで、生活の幅が一気に狭まることによる影響は大きいです。

数名の認知症医と話をしたことがありますが、可能であれば本人の納得や同意を得なければ診断書は書きたくないとのことでした。ただ、あまりにも事故などのリスクが高い場合であれば家族の同意を得ることで代用させる措置はしているそうです。

 

人が変われば聞いてくれることも

こういった問題で頭を抱えているのであれば、本人に対して家族から散々説得したのだと思います。それでも本人は断固拒否だったのでしょう。

確かに説得させることは困難です。それが家族なら尚更。ただ、人が変われば案外耳を傾けてくれるケースが数多くありました。

とある80歳の男性は、定期的に受診している医師から「もう高齢なので運転は金輪際やめてください。これ以上続けるならば私から警察に通報します。」と強気に声を掛けてもらいました。これは家族が予め「こういった事情なのでガツンと言ってください」と打ち合わせていました。高齢の方は未だ「医者=偉い人」という認識があるため、スンナリ聞いてくれる場合があります。

また、別の男性のケースでは事故を起こして警察との実証見分に立ち会う際に、警官から先ほどの医師と同様、「これ以上の運転は犯罪行為に繋がります。これを機に運転とはキッパリと別れましょう。」と言ってもらったことで運転を止めました。

タイミングが重要になってきます。特に本人が落ち込んでいる時には効果大です。そこに畳みかけるように説得するのは少し気が引けますが、機を逃すとまた危ない運転を繰り返します。

 

運転を止めてもらうために皆が実践したこと

医師の診断書や説得ではどうしようもないケースも多くあります。本人のキャラクターによって納得(渋々了承)する状況を作るしかありませんが、こういった問題を乗り越えていった方たちはどのような事をしたのでしょうか。

【皆が実践したこと】

◆近くの自動車整備工場と結託し、バッテリーなどのパーツを外して故障したことに。修理費用も高く、購入する手間もかかるため断念せざるを得ない状況設定にする。
◆信頼しているケアマネジャーから「車で走っていた分を代わりに歩きましょう。それで元気になればひ孫さんをしっかりと抱っこ出来ますよ!」と、運転の代わりの目標を立てた。
◆利用しているヘルパーに白衣を着てもらい医者を演じてもらう。「これ以上車を運転していると危険だ。家族のためにも運転はやめてください。」と伝えた。
◆家族が運転している時にぶつけて壊してしまった。もう廃車処理したため現物は無いと嘘を言い、実は本人には見つからない少し離れた駐車場に止めている。
◆本人の車での移動距離をタクシーの運賃に換算。結果的にタクシーを使った方がかなり安上がりであった。そのため「タクシーの方が安上がりで楽チンだよ。」と伝えた。

皆さん試行錯誤を繰り返しながら根気強く対応しています。ただ、最終的に本人が折れるのは「仕方ない」と思ってもらう状況が作れた時であることが多いです。

また、こういった案はケアマネジャーなどの専門職がアイディアを多く抱えています。地域包括支援センターでも構いません。新しく人が入ることで流れが変わり、本人の気持ちや考えにも変化が生じて一気に解決へ向かっていくことも私自身何回もありました。

(リンク)ケアマネジャーをつけるには?

壁にぶつかった時は別の視野からの介入が必須です。自分や家族だけで解決しようとせず、色々な人を巻き込んで「チーム」で対応していきましょう。